福島原発の危険評価をめぐる、米国政府と米原子力委員会(NRC)の温度差
11/04/13
| 18:21
福島第一原発の危険評価について、オバマ政権と米原子力委員会(NRC)との緊張が高まっている。NRCが極端に悲観的な見方を公式・非公式に流布していることに対し、ホワイトハウスは、日本政府の危機対応努力を不必要に混乱させ、日米外交の緊張関係をより高めるとして、日増しに怒りを募らせている。
物議をかもした50マイル圏外への避難勧告
NRCは、民間の原子力利用に関連するすべての問題を扱う唯一の政府機関だ。独立機関として、国内の政治やエネルギー政策のなかで、予測不能の存在でもある。民主党政権であっても共和党政権であっても、NRCとの意見の対立には常に神経を使う。政府が民間人の安全よりも原発関連業界の利害に寄り過ぎているのではないか、と選挙民に受け止められかねないからだ。
3月11日の地震と津波が福島原発に甚大な被害を与えて以来、その危険の程度について、ホワイトハウスとNRCの評価には食い違いがある。その温度差は先週末までは表ざたにはされなかったが、ここへきてホワイトハウス高官からNRC
の見解に反論するような内容の指摘が匿名でメディアに流布されるなど、見解の相違が次第に明るみに出てきている。
両者の見解の食い違いの1つは、福島原発からの避難範囲についてだ。NRCは50マイル(約80キロメートル)圏内の避難を主張していたが、ホワイトハウス側は日本政府による20~30キロ(12~18マイル)圏内を避難区域とする指示に同調的な態度を示している。
NRCのグレゴリー・ヤツコ会長は、3月16日の議会証言において、福島第一原発の4号炉(=写真 4/10撮影)の使用済み核燃料貯蔵プールから水がなくなり、発熱を続ける燃料棒が露出して危険だときっぱり証言している。これに対し、日本の政府高官は4号炉の貯蔵プールの核燃料が外気に晒されているとの断言を否定。NRCもその後主張を一部改め、自らの見解に推測が含まれていたことを認めている。
両者の見解の食い違いの1つは、福島原発からの避難範囲についてだ。NRCは50マイル(約80キロメートル)圏内の避難を主張していたが、ホワイトハウス側は日本政府による20~30キロ(12~18マイル)圏内を避難区域とする指示に同調的な態度を示している。
NRCのグレゴリー・ヤツコ会長は、3月16日の議会証言において、福島第一原発の4号炉(=写真 4/10撮影)の使用済み核燃料貯蔵プールから水がなくなり、発熱を続ける燃料棒が露出して危険だときっぱり証言している。これに対し、日本の政府高官は4号炉の貯蔵プールの核燃料が外気に晒されているとの断言を否定。NRCもその後主張を一部改め、自らの見解に推測が含まれていたことを認めている。
にもかかわらず、NRCは在日米国大使館に対し、50マイル圏内から米国人を避難すべいという勧告を出し、「20~30キロメートル圏内」という日本政府の避難勧告と鋭く対立した。NRCの勧告は、米国国内での原発事故に際しての避難基準に基づいたものである。それは放射線量で最大1レム(=10ミリシーベルト)まで汚染された危険地域からは遠ざからなければならないというものだ。それに基づき、4号炉の核燃料貯蔵プールの状況から推測して、50マイル圏外への避難が適切、とNRCは判断した。
NRCの内部文書が洩れる
これに驚いたのは、ホワイトハウスと国務省だ。日本政府は正確な情報や安全勧告をしていないとして、民主党菅政権の面目を失わせ、日本国民を混乱させることになりかねないからだ。しかし、ホワイトハウスはNRCと公然と対決する道は選ばなかった。代わりに、オバマ大統領はNRCの判断が日米友好関係に齟齬をきたすことがないよう、在ワシントンの日本大使館に異例の弔意訪問をすることにした。
NRCの避難勧告が公にされたのとほぼ同じ時期に、米国から放射能レベル測定の高性能の専用装置が日本に到着した。これまでのところ、その装置を使った調査では、日本政府が設定した避難範囲を超える危険レベルの放射線量は検出されていない。4月11日、菅政権は避難範囲を広げ、いくつかの地点で高い危険レベルが測定されたと発表したが、NRCによる50マイル圏外避難を裏付けるようなことにはなっていない。
その後、NRCの内部文書が、原発に反対している「UCS(the Union of Concerned
Scientists=憂慮する科学者同盟)」というシンクタンクにリークされたことから、NRCは再び物議をかもしている。その文書の要約が『ニューヨーク・タイムズ』に載っているが、それによると2号炉の炉心の燃料棒の一部が溶け出し、コンクリートと鋼鉄の床に落下しているという。
そういう悲観的な評価は、議会内で原発に反対する急先鋒のエドワード・マーキー下院議員らの間で高まっている。NRCのヤツコ氏はかつてマーキー議員の側近だったことがある。
ヤツコ氏はあからさまな原発反対論者ではないが、NRCは米国原発の安全性確保に責任があり、彼はその機関の政治的信頼性を守ることに絶えず心を砕いていなければならない。その結果、米原発業界とぶつかることがしばしばある。
ホワイトハウスとNRCの思惑
ヤツコ氏が在日米国人に対して50マイル圏外避難を勧告して以来、NRCは原発推進派からの猛烈な批判にさらされている。それには、NRCに意見を具陳するNGOの専門家で組織される原発安全保護諮問委員会(Advisory Committee on Reactor Safeguards)も含まれる。その委員会メンバーはNRCに対して、半径50マイルの根拠を示すよう再三にわたって問い合わせているが、NRCは応じていない。NRCは原発の安全性について疑問視する関係者からの信頼性を守ることに懸命なのだ。
ホワイトハウスはNRCに対して反撃に出た。福島原発が完全に制御されるまでにはまだ時間を要するが、危険レベルは低下している、と何人かの報道陣に明らかにしている。福島2号炉の燃料が厚い鋼鉄の圧力容器を突き破ってメルトダウンしているという証拠はない、とホワイトハウスは主張している。
NRCは、国内の選挙民の信頼を醸成するために働いている。選挙民の中には原発業界を抑圧するような厳しい安全規制を求める人たちも多い。一方、ホワイトハウスは福島原発の状況に関して、日本政府が発表するデータや評価に対してその正確さや正直さに信頼をおいていない、という疑念やうわさは振り払いたいと考えており、両者には深い溝がある。
(ピーター・エ二ス特約記者、ニューヨーク在住、翻訳:伊豆村房一 =東洋経済オンライン)
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